「物語」の力で、マーケティングにワクワクを。神奈川大学・津村准教授と語るストーリーテリングの力
2024.09.04
最終更新日:
2024/9/04

コンテンツやクリエイティブにおいて「お客様の関心を引き出せていないかもしれない」と悩みを持つ人も多いと思います。私もその一人です。
そこでいろいろと調べるうちに「ストーリーテリング」に出会いました。ストーリーテリングとは、従来のような直接的な訴求ではなく、ストーリー(物語)を介すことで、共感や価値を感じてもらう方法です。
ストーリーテリングへのさらなる理解を深めることを目的に、神奈川大学の准教授・津村将章さんにお話を伺いました。
<津村将章氏 プロフィール>
専門はマーケティング、消費者行動。物語の心理的効果やブランドの世界観について研究を行っている。現在、神奈川大学経営学部准教授。
ファクトの羅列よりも、物語は“人の記憶に残りやすい”
ムロヤ「本日はインタビューのお時間をいただき、ありがとうございます。お話できることを楽しみにしていました」
津村「こちらこそ、お声がけありがとうございます」
ムロヤ「ストーリーテリングについて、いろいろ伺えればと思います。早速ですが、マーケティングコミュニケーションにおいて、ストーリーテリングがどのような効果を発揮するか教えてください」
津村「ストーリーテリングとは端的に言うと、“物語を伝える”ということですね。そして、物語には”人の記憶に残りやすい”という特徴があります」
ムロヤ「統計的には、どれくらい記憶に残りやすいとされているのでしょうか?」
津村「スタンフォード大学のJennifer Aaker教授は、『ファクトでただ伝えるよりもよりストーリーの方が記憶に22倍残りやすい』と言っておりますが、この他にもいろいろな研究結果があって、少なくとも“事実の羅列で覚えるよりは、物語のほうが記憶に残りやすい”と言えます」
ムロヤ「私自身の実感としても、物語や文脈のある情報の方が記憶に残りやすいです」
津村「そうですよね。この特性をマーケティングに活かすと、生活者に具体的な使用場面を伝えたり、“自分の日常で、こんな風に役立ってくれるかも”と、想像してもらいやすくなります」
ムロヤ「ベネフィットや商品の価値を感じてもらいやすくなる、ということですか?」
津村「そうですね。物語を通して利用シーンを伝えることで、消費者に“自分にぴったりな商品だ”と感じてもらったり、自身の生活に合う使い方を理解してもらいやすくなります。また、ブランドストーリーなど、商品の歴史的な背景を伝えることも、“その商品を買う理由”の意味付けにつながります」
ムロヤ「単発の購入だけではなく、リピート購入やファン化にも寄与しそうですね」
津村「はい。物語によって、共感や愛着、ブランドへの好意度が向上するという点もあります。記憶に残りやすい、共感を得て自分ごと化させやすいといった観点から、ストーリーテリングはマーケティングコミュニケーションの様々な場面で活用できると考えています」
パターンに沿うことで、物語の力は最大化する
ムロヤ「では、これからストーリーテリングを取り入れてみたい人が、押さえておくと良いポイントはありますか?」
津村「物語であればなんでも良いわけではなく、パターンに沿うことで伝わりやすくなる。それを理解しておくことですね」
ムロヤ「物語として求められる“型”があるのでしょうか?」
津村「そうです。お茶の水女子大学名誉教授の内田伸子先生は、研究の中で『主人公に解決しなくてはならない事件や葛藤事態が生じる。これを解決しようと目標が立てられ、主人公は目標達成のための行動をとる。最終的に目的が達成されたか否かが語られる』と、述べています。私は、物語を面白くするポイントは『事件』や『葛藤』だと考えています。それらがないと、物語への興味関心は薄れてしまうのですよね」
ムロヤ「確かに、物語にはいくつかのパターンがありますよね」
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<ポイント!物語にはパターンがある。>
なかでもヒーローズジャーニー(英語: Hero's Journey)は有名で、多くの神話や物語に共通して見られるパターンです。『スター・ウォーズ』や『ハリー・ポッター』もその一つとされています。参考:物語の類型 - Wikipedia
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津村「はい。基本的には、何らかの事件が起こり、それをどう解決するかという点が共通しています」
ムロヤ「物語にはパターンがあるという知識をチームで持てていると、施策のレビューも捗りそうですね」
津村「チーム内で共通認識として持っておくと、話を進めたり、施策を具体化しやすくなると思います。そういった観点からも把握しておくと良いでしょう。企業の方は、必ずしも物語に関する知見を持っているわけではありません。自力で考えるのに行き詰まった時にも、参考にすると良いと思います。物語のパターンの研究には長い歴史があって、先人たちの知恵が詰まっていますから」
目標だけでなく、達成に向けた「自分の物語」を語る
ムロヤ「先ほど、『事件』や『葛藤』があるから興味関心が保たれるとお話しされていました。それらが、物語に入り込める要素となるのでしょうか?」
津村「そうですね。昨今、パーパス(目的)を掲げる企業が多いですが、達成に向かうためには、パーパスだけでなく物語も語っていかなければなりません。パーパスのために、どんな葛藤や困難があって、みんなで乗り越えてきたか。それを内外に語ることが、会社のブランディングにもなります」
ムロヤ「夢や目標がある企業なのか、ただお金儲けをしたい企業なのか。仲間や応援してくれる人を増やしていくなら、物語は大事なポイントになりますね」
津村「航海と一緒で、目的地に行くために、機長や動力部の人たちはどんな役割を担っているのか。どんな困難に遭遇して、船員一丸となって乗り越えていったのかが語られると、聞いている人もワクワクしますよね」
ムロヤ「そのワクワクこそが、パーパスへの共感や物語への没入を呼びそうです」
津村「有名な寓話である『3人のレンガ職人』(お金を稼ぐため、自分の成長のため、社会の役に立つため、それぞれの目的のために働く人の話)に近いかもしれませんね」
ムロヤ「広報や採用広報、IRなどでこの視点があると、発信するメッセージの言葉選びも変わりそうです。BtoB商材や大人に向けたコミュニケーションは、どうも真面目なトーンになることが多くて。個人的には、面白くないと感じることもあります」
津村「共感を得るためにも、仲間を集めるためにも、自分(自社)の物語を語ることが欠かせません。商品開発のストーリーや目標達成のプロセスを語ることで、従業員の熱意を引き出したり、採用候補者へのアピールにもつながります。
『事件』や『葛藤』がなければ物語はつまらなくなり、共感も呼びません。また、物語をもっているだけでは周囲に伝わらないので、しっかりと発信していく必要があります。生活者は日々多くの情報を浴びていますし、発信することの重要性は、今後ますます高まっていくでしょう」
ストーリーテリングにも得意不得意はある
ムロヤ「昨今流行っている、ショート動画についてもお聞きしたいです」
津村「もちろんです」
ムロヤ「TikTokの普及を皮切りに、尺が10数秒の動画フォーマットが一般化しました。そうなると、“じっくりと長い時間をかけてヒーローズジャーニーを描く”のは難しいと思うのですが、ショート動画にも、ストーリーテリングのノウハウを活かすことはできるのでしょうか?」
津村「前提として、ストーリーテリングが全ての場面に適しているわけではなく、得意不得意はあります。物語の語られ方も、時代によって変化しています。
従来の物語は、状況設定や目標の共有に認知資源を割く必要がありました。時間をかけて説明し、受け手には、頭を使って状況を想像してもらうものでした。しかし、現代では冒頭で注意を引きつけるような手法を用いることが多いですよね」
ムロヤ「確かに。ショート動画はストーリーテリングに頼らずとも、見せ方を工夫して、人を引きつけたり面白くしたりしている気がします」
津村「そうですね。ショート動画というフォーマットでは、“わかりやすさ”が最重要視されているのだと思います。一方で、原理原則の理解が必要なテーマや、信頼をもたらしたり、感情的なつながりが求められる情報の伝達には、ストーリーテリングが適しているでしょう。
例えば、会社の歴史や将来のビジョン、ブランドストーリーなど、じっくりとコミュニケーションを取りたい場合はストーリーテリングの手法が効果的です」
ムロヤ「ただの年表では記憶に残りにくいことも、苦労話などを交えた物語として語られることで、印象に残りますよね」
津村「歴史を覚えるのと同様に、出来事の背景にあるストーリーがわかると、記憶に定着しやすくなります。ただ覚えてもらうだけでなく、行動も促しやすくるでしょう」
紙芝居を楽しめる人は、ストーリーテリングに向いている?
ムロヤ「ストーリーテリングをマーケティングで活用する際、気をつけるべきポイントはありますか?」
津村「物語は自由な解釈ができる側面があることを前提に、リスクコントロールしないといけません。企業と同じ解釈を生活者もするとは限りませんし、生活者の全員が同じ解釈をするわけではありませんよね。
世の中の状況を鑑みながら、言葉遣いやストーリーそのものをチューニングしていく。その観点を忘れないようにしましょう」
ムロヤ「確かに、全員が同じように受け止めると思い込んでしまうと、思わぬ方向から批判を受けることもありそうです」
津村「だからといって、物語がないというのも少しさみしく思うこともあります。例えば、NPOなどの寄付先の団体からお金の使途を書いた紙だけが郵送されると、物足りなくなるときがあります。物語のような形式で、現地の状況などを伝えてくれる団体の方が、自分のお金が有益に使われている実感が持てるのですよね。
人は、自分が積極的に関わっているコミュニティであれば、多少長いストーリーでも読みたいと思うものです。先ほどもストーリーテリングが万能ではないとお伝えしましたが、置かれた立場や状況によって、最適な表現方法は変わってくるのだと思います」
ムロヤ「それを聞いて、紙芝居がパッと浮かびました。“子どもに分かりやすく伝える”というベースがあるので、冗長にさせない工夫が施されていますよね。
例えば紙芝居で火遊びの危険性を伝えるとしたら、ただ「危ないからダメ」と言うだけではなく、事故に遭ったら痛い思いをするし、周りの人も悲しむといったストーリーが描かれると思います。物語を通して伝えることで、子供の記憶に残りやすくなるし、“絶対にやらない”というマインドの醸成にもつながりそうです」
津村「紙芝居の例え良いですね」
ムロヤ「本当に今、パッと浮かびました(笑)」
津村「紙芝居を読み聞かせる時のように、受け手に“ワクワクしてもらいたい”“楽しんでもらいたい”という気持ちをもっているマーケターは、ストーリーテリングとの相性が良いと思います」
ムロヤ「確かに! 商品やサービスに興味がない層を振り向かせる手段の一つとして、ぜひストーリーテリングを活用してほしいですね」
津村「そうですね。きっと、魅力的な物語をもって商品の魅力をアピールできるはずです」
ムロヤ「津村先生、本日は興味深いお話を、ありがとうございました!」
編集後記:ムロヤ
津村先生にインタビューをお願いしたのは、私自身がストーリーテリングを学んでいて、おもしろいと感じることがたくさんあったからです。
論理的に説得されても人は動かず、実際のところ、人間は感情で動く生き物でもあります。
人の感情を動かすのに最も効果的なのが、ストーリーです。例えば、ハリー・ポッターやスター・ウォーズのような作品は、人を引き込む力がありますよね。これらには「ヒーローズジャーニー」という構造があり、主人公が困難に直面し、それを乗り越えて成長していく過程が、人々の心に強く訴えかけるのです。
せっかくのいい商品・サービスをお客様の手に取ってもらうためにも、人々の注目を集め、深い理解を得ることが重要ですよね。ストーリーテリングがそれを手助けしてくれるだろうと考えています。
特に潜在顧客層に対して効果的だと思っています。まだニーズが顕在化していない人に「これはいいですよ」と言っても、なかなか響きません。しかし、ストーリーを通じて伝えることで、興味を持ってもらいやすくなると思うのです。
まずは難しく考えすぎずに、「自社であれば、どのようにストーリーテリングを活かせそうか」「どんな物語を語れそうか」を考えてみてください。
津村先生は「人間は物語に惹かれるものだ」ともおっしゃっていました。人の本質に根ざした手法なので、きっと手応えを感じられるはずです。
<理解を深めるおすすめ書籍>
『ストーリーブランド戦略』(著:ドナルド・ミラー、ダイレクト出版)
『人を動かすナラティブ』(著:大治朋子、毎日朝日出版)





