消費者理解を超えた「人間理解」がマーケティングの醍醐味
2024.05.24
最終更新日:
2024/5/24

こんにちは。株式会社スノードームの室谷です。
マーケティングの基本であり、永遠のテーマとも言える「消費者理解」。
マーケット(市場)は消費者の行動の集合体なので、消費者を理解することはマーケットの理解につながります。マーケットの理解は、本質的なマーケティング戦略の策定に欠かせません。
そして、消費者理解は人間そのものを知ることでもあります。人間への理解を深めることは、マーケティングにおいて、何年先までも使える知識を得ることと同義です。
この記事では、マーケティングに従事する方々に向けて、消費者理解に留まらない人間理解の重要性や学び方、どのような場面で力を発揮するのかをご紹介します。
なぜ「人間理解」なのか
まずは、人間理解の重要性からお話しします。
マーケティングでは、消費者のライフスタイルやニーズ、ベネフィットなどを理解することが重要視されています。しかし、ニーズは時代とともに満たされ具合も、新しく欠乏する要素も次々と変わっていきます。
メディア環境やテクノロジーも変化が激しい領域です。それらのキャッチアップに奔走するよりも、普遍的な知識へ投資した方が費用対効果は高いですよね。
私は、消費者理解を超えた人間理解が、マーケティングにおける普遍的な知識への投資だと考えています。
普遍的だからこそ、より効果的なマーケティング施策の実施につながるのです。
例えば、一生懸命作ったコンテンツが見てもらえなかったり、広告が記憶に残らなかったりするのは、人間の認知機能を理解していないことが原因かもしれません。人間の注意や記憶の仕組みを知ることで、より効果的な表現やアプローチを思いつく可能性もあります。
人間の原理原則は、そう簡単には変わりません。1万年前と現代では、ウォンツ(ニーズを満たす手段)は違っても、人間の根源的な欲求は変わっていないのです。
人間理解にオススメの学問
人間理解を深めるなら、以下のような学問に触れるのがオススメです。理系の人間からすると心理学は有名ですが、そのほかにも様々な分野があります。

行動経済学
心理学的視点から人間の不合理な行動の背景を学べます。「伝統経済学の逸脱の証明」とも言われています。ダニエル・カーネマンの「システム1」「システム2」やナッジが有名ですね。
認知心理学
情報処理の観点から、人間のパーセプションを理解できます。ブランディングやマーケティングコミュニケーションと密接な領域です。
進化心理学
生々しい欲望や根源的な部分を学べます。ヒトの心理メカニズムの多くは生物学的適応であると仮定し、ヒトの心理を研究するアプローチです。
神経科学(≒脳科学)
神経系の側面から、人間の記憶や思考、知覚などの仕組みを学べます。
また、脳機能の観点から人間を理解できます。感覚入力処理(五感)、高次認知機能、情動、神経内分泌系と自律神経系(脳と体の橋渡し、ホルモンと神経)などが含まれる領域です。ニューロンのつながりからブランディングの本質も見えてきますし、人の「連想」を科学的に理解できます。
マーケターが知っておくとよい人間の特性
また、私がこれまで学んできたことのなかから、マーケターが知っておくと良いと感じた人間の特性を紹介します。
・脳は体重の2%程度だが、エネルギーは人間全体の20%を消費する(Raichle & Gusnard, 2002)
・脳はエネルギーを節約するために、パターン認識をする(Ali et al., 2021)
・認知バイアスをもつ(Tobena et al.,1999)
・シナプスには可塑性(その性質の変化のしやすさ)があるから、よく使われる記憶は蓄えられ、使われない記憶は消去されていく(Citri & Malenka, 2007)
・脳は重要な情報に選択的に注意を向け、その情報に価値をタグ付けする (Wispinski et al., 2020)
・脳と体は密接に関わる(神経内分泌系と自律神経系を介して)(Taylor et al., 2010)
特性とは、人間というシステムの「仕様」です。ゲームで言えば、絶対に守ったほうがよいルールや決まりのようなものです。
認知の前には知覚(刺激に対して意味づけを行う過程)がある。刺激を受け取る五感のうち、マーケティングコミュニケーションでは視覚をよく扱うため、人間のものの見方を知っておくと良いのです。
例えば、脳はエネルギーを食う臓器なので、活動を維持するためにエコ(省エネ)であろうとします。
認知バイアスや、使わない知識を忘れる仕組みは、思考にエネルギーを割きすぎないために備わっています。
それらがあることを前提にマーケティング活動をする方が、消費者の購買行動の背中を押しやすくなります。この前提に立てない状態、つまり、人間理解が浅い状態だと施策はうまくいきづらいです。
仕様やルールに逆らうと、効率が悪くなったり失敗したりしますよね。
だからこそ、人間の特性を知った上で、消費者に適切にアプローチするべきなのです。
例えば、ある記事を一生懸命に作ったオウンドメディアの担当者が居たとします。
しかし、消費者は担当者と同じようにそのコンテンツを読むわけではないので、いかに「無意識でスルーすることが前提の人」に大事な情報と思ってもらえるか。最後まで読んでもらい、読んだ後に行動に繋げてみようと思ってもらえるか。工夫を凝らすマインドが大事です。
ただ、特性を知らなくても、自分自身の経験からユーザーの課題や洞察を見抜けることもあると思います。自分がその商品カテゴリをよく知っていたら、経験則も活かせるかもしれません。
しかし、全てのことを経験できるわけではなく、経験則には限界があります。そんな時にも、先人たちの知恵に触れることで、より精緻にユーザーのインサイトを理解できるはずです。
マーケ施策の限界突破にも寄与する
多くのマーケターが、限られた予算で施策に取り組んでいると思います。人間理解は、マーケティング施策の限界突破にも寄与します。
例えば、人間理解によって精緻にユーザーインサイトを理解できれば、強力なベネフィットの発見にもつながります。強力なベネフィットを見つけて施策に活かせば、ユーザーのCVRや購入意欲も高められるでしょう。
また、広告宣伝費にも限りがありますよね。
予算が潤沢でなければ、「記憶効率」で勝つことを目指すしかありません。そのためには、人の認知機能(注意、記憶、理解、想起など)に関する理解が不可欠です。
人間理解を深めることで、仮説が次々と思い浮かび、施策のアイディアが枯渇することもなく、競合の追随を許さない状況も作り出せるようになるでしょう。
マーケティングの対象は人間です。
人間を深く理解した上で、テクノロジーや便利なツールを活用し、施策を実施していきましょう。テクノロジーは、人間理解に基づいて考えた施策の効率を高めてくれるものです。
便利で効率的なツールを使いこなそうとする前に、まずは3C分析の第一歩であり、マーケティングの土台となる消費者理解を深めましょう。消費者理解がないと、消費者視点・消費者目線がないズレた施策を連発してしまい、消費者ヘ価値を伝達することができません。
そして、消費者理解をミクロに突き詰めると、人間理解に行き着きます。人間を知ることで、人の本質に逆らった施策を選ぶことはなくなり、成功確率が高まっていくはずです。
もっともっと人間の脳や心、行動の仕組みを理解し、日々のマーケティング施策に活かしていきましょう。
【参考文献】
Ali, A., Ahmad, N., de Groot, E., Johannes van Gerven, M. A., & Kietzmann, T. C. (2022). Predictive coding is a consequence of energy efficiency in recurrent neural networks. Patterns (New York, N.Y.), 3(12), 100639. https://doi.org/10.1016/j.patter.2022.100639
Citri, A., & Malenka, R. C. (2008). Synaptic plasticity: multiple forms, functions, and mechanisms. Neuropsychopharmacology : official publication of the American College of Neuropsychopharmacology, 33(1), 18–41. https://doi.org/10.1038/sj.npp.1301559
Raichle, M. E., & Gusnard, D. A. (2002). Appraising the brain's energy budget. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 99(16), 10237–10239. https://doi.org/10.1073/pnas.172399499
Taylor, A. G., Goehler, L. E., Galper, D. I., Innes, K. E., & Bourguignon, C. (2010). Top-down and bottom-up mechanisms in mind-body medicine: development of an integrative framework for psychophysiological research. Explore (New York, N.Y.), 6(1), 29–41. https://doi.org/10.1016/j.explore.2009.10.004
Tobena, A., Marks, I., & Dar, R. (1999). Advantages of bias and prejudice: an exploration of their neurocognitive templates. Neuroscience and biobehavioral reviews, 23(7), 1047–1058. https://doi.org/10.1016/s0149-7634(99)00036-6
Wispinski, N. J., Lin, S., Enns, J. T., & Chapman, C. S. (2021). Selective attention to real-world objects drives their emotional appraisal. Attention, perception & psychophysics, 83(1), 122–132. https://doi.org/10.3758/s13414-020-02177-x





